僕は児童養護施設の問題を視野の外に置いた虐待言説が白々しくてたまらないだけ。

世の中にAC関係の本は多い。なかには児童への虐待やレイプを主題にした本もあると思う(よく知りませんが)。そんな問題と無縁に育った人の多くは、それを見ただけで震撼し、エラいことだと大騒ぎする。そんな良心ある人々の理解に支えられて、ACや家庭虐待経験者の人々は不本意ながらもある意味安定した「マイノリティ」のポジションを得られているように見えます。

僕のように児童養護施設職員の彼女がいたりする人間には、なんかため息の出る光景。僕自身はそういう問題とはまったく無縁に育った「マジョリティ」の一人ですが、誰を「マイノリティ」と見るかの基準点は、今や他の人々とは大きく違っています。

まあ厳密にはケース・バイ・ケースなのですが、児童養護施設出身者は卒園後、本当に大変な暮らしを強いられる場合が概して多いんですよ*1。どういう意味で大変かというと、そもそもネットで家庭虐待とそれについての発信をめぐる言説が流行しているという事実を知る機会すら持てない*2というレベルの話で、最初から蚊帳の外なんですよね。

例え声をあげても、h.さんがかつておっしゃったように、「あいつらは異常にしつこい。みんなあいつらの言うことは信用するなよ」などのような、露骨な差別が罷り通ってしまうわけですよ。そもそも疎外の境遇がデフォルトでインストールされている人が多いですから、反撃も息が続かない。今回も「施設関係者」で声を上げてるの僕だけですよね(だんだん気が重くなってきた)。

そういうわけで、例え彼らが声を上げても「誰お前?」で終わり。そして、あくまでも「家庭育ち」という大集合のなかで「虐待経験の有無」が線引きの基準となり、安定した二項対立図式のなかで「私かわいそう」「あなたかわいそう」「アラアラみんながかわいそう」と気遣い合う美しい光景が繰り広げられる ― まあ意地の悪い言い方ですが、僕にはそう見えざるを得ないわけです。彼女を通じて、もうひとつの<不可視の集合>のことを知ってしまったからね。

どうすりゃいいのコレ? 僕には施設出身者の代弁者になるような度量まではないからなあ。第一、里親をやっているわけでもないし。でも、里親とか施設職員とかを実際にやっている人は、悠長(失礼)にネットをやっている余裕などは時間的にも気持ち的にもありませんからね。まー気づいた人間が少しでもできる範囲で発信をするしかないのかなあ*3

というわけで、h.さんに「Mariaさんに謝罪したら?」と僕がしきりに勧めるのも、「キミたちもっと施設のことを知ってくれや! 視野広げてくれや!」という苛立ちがあるからなんです。本来、そんなことをいう筋合いではないのにもかかわらず、あまりにも無関心な人々が多すぎるから、お節介な横紙破りをしている感じ。h.さんへの僕の評価が混乱しているのも、僕が本来誰よりも呑気な家庭育ちであるにもかかわらず、施設出身者の気持ちも多少はわかるようになったという二重性から来ているのです*4

えーい、もうストレートにお願いしちゃおう!

この記事を読んでくださった方は、これから家庭虐待の問題をめぐるアレコレを語ったり読んだりするとき、施設出身者のことを少しでも気持ちの隅に留めておいていただけませんか。安定した集合図式のなかで、ある意味ラクな幾何問題ばかり解かず、もっと高度な計算にチャレンジしていただけませんか*5

断っておきますが、僕も彼女も施設不要論者ではありませんからね。彼女は僕とは違ってMariaさんとかが好きではないくらいです。それでも、僕たちの共通見解として言えることは・・・この国では施設出身者の方々が軽視されすぎ

では疲れたので寝ますが、ホントたのんますよ。少数派なんすからマジで。理解して下さる方がひとりでも増えることを願っています*6

*1:とりわけ深刻なのは乳児期から青年期までの全期間を施設ですごすよう強いられてしまう方々の場合です。これについてはLeiさんの『Firedragon戦記』およびMariaさんの『Mariaの戦いと祈り』をご参照ください。

*2:PCが買えない・住所不安定であるなどの理由で。

*3:ウラ話追記。いま仕事がとても忙しいので、記事ひとつ書くにも犠牲大きいです。安全圏に踏みとどまるためにも、ある程度のお遊び化は個人的に不可欠でした。誰もが沈黙しているなかで施設の問題に少しでも人々の注意を向けることに成功すれば、それだけで満足だったということもあります。あと、誰かが本格的に介入し始めたらそれこそ「生涯を捧げる」級の仕事になるかも知れないこの問題をただ単に「ひとまかせ」にしようとする人がもしいたら、そのいかにも日本的な無責任さはさすがに気が知れません。あなたも文句がおありなら僕なんかに向けず、ご自分でメッセージ発信を始めてくださいね。それがこの社会の風通しを良くしていく第一歩だと僕は信じています。

*4:元記事の記述を少し直しました。

*5:数学の得意な理系の方々がネットには多そうなので、本当に期待しているのです。

*6:しょせんは単なる部外者のエゴですが。